FRISK JOURNAL

2017.12.21 Thu

“安価でかっこいい義手”を開発し、
制作データを無償公開/開発者 近藤玄大

 

斬新なアイデア・ひらめきをきっかけにイノベーションを起こした人たちにフォーカスするインタビュー企画。今回ご紹介するのは、NPO法人Mission ARM Japanの近藤玄大。

“安価でかっこいい義手”を開発し、制作データを無償公開/開発者 近藤玄大さん

近藤が開発したのは、まるで『攻殻機動隊』や『ブレードランナー』といったサイバーパンクに出てきそうな、クールなデザインでありながら、製作原価をわずか数万円に抑えた義手だ。最初に発表した筋電義手「handiii(ハンディー)」は、国内外のハードウェアコンテストで数々の賞に輝いただけでなく、世界的な複合フェス「SXSW(サウスバイサウスウェスト)」※でも大きな注目を集めた。

※毎年3月にアメリカのオースティンで開催される、世界最大級のクリエイティブ・ビジネス・フェスティバル。

驚いたのは続く「HACKberry(ハックベリー)」だ。3Dプリンタさえあれば誰もがDIYできるよう、なんと設計図を全世界に向けて公開してしまったのだ。医療機器、福祉、ファッション、ビジネス──あらゆるジャンルを横断したイノベーションを起こす彼の狙いとひらめきのコツに迫った。

制作データを公開!
コストわずか5万円に

従来の義手のイメージをくつがえすファッション性と低コスト化で、世界的にインパクトを与えた「handiii」と「HACKberry」。近藤玄大のこれまでと開発秘話をひもとく前に、まずは「筋電義手とはなにか」を解説しなくてはならないだろう。

「手を失われた方でも、腕が残っているケースが多いのですが、筋電義手はその残っている腕の筋肉の信号を読み取って、ロボットの動きに変換する装置です。ドイツでは1960年代にすでに商品化されていたのですが、非常に高価だったり、肌色のカラーリングしか選べなかったり、メンテナンスが大変だったりという問題があり、日本でも普及率1%とほとんど広まってこなかったんです」

そこで、3Dプリンタを使ってもっと安価に、かつデザインのバリエーションを選べるようにと開発したのがプロトタイプの「handiii」であり、普及モデルの「HACKberry」だった。この「HACKberry」、近藤は作り方をネット上で公開してしまった。3Dプリンタを都合できれば自分で制作することができ、材料費は5万円程度で済んでしまう。

「ただ、『HACKberry』は世界中の見知らぬ人に自由に作ってもらうぶん、故障のリスクを想定しなければいけません。そのため、『handiii』に比べると多少、簡素化しました。たとえば、『handiii』はワイヤーで動かしているので実際の手のように滑らかなのですが、ワイヤーはメンテナンスが大変で。『HACKberry』では、少し動きが機械的になってしまうのですが、簡単なギア駆動を採用しています」

しかし、これまで150万円は下らなかった筋電義手を、DIYとはいえわずか5万円で製作できるよう世界中に広めた意義は大きい。そんなイノベーティブな筋電義手の開発・公開に至った理由とモチベーションはなんだったのだろう。

すべての動機は
「人を理解したい」という気持ちから

すべての動機は「人を理解したい」という気持ちから

「もともとは『人を理解したい』という気持ちからです。人は脳で想像するだけではなにも起こらなくて、脳とカラダが連動して初めてスポーツや音楽といったクリエイティブな表現ができます。そういうところから人や脳に興味を持ち、脳の信号で機械を動かすブレインマシンインターフェイス(BMI)やサイバネティクスを研究しようと決めたんです。

ただ、はっきりと研究テーマが決まったのも大学4年になってから(笑)。高校の頃なんて、ほぼバスケのことしか頭になかった。でもバスケでは食っていけないし、理系の大学に進んだのでなにをやろうかと考えた結果、BMIに行き着いたという感じです」

本人はバスケに明け暮れていたと言うものの、進学したのは東京大学工学部。在籍していたのは中高一貫の進学校で、ほとんどの学生が東大に入るため、ごく自然な流れで東大に進んだというのだからおそれいる。

「東大の場合、研究テーマを選ぶのは後半なんです。だから就活するか研究するかみたいな感じで、ぼくはそのまま研究の道をのぞいてみたら面白そうだったので大学院に進みました。

本当は船というかヨットの研究もやりたかったんですよ。カラダを動かすのは好きだし、東大には船の研究をされている先生もいましたし。だって海って男のロマンじゃないですか(笑)。でも、それこそ大航海時代からある技術なので、工学的にはだいたいやりつくされてしまっている分野でもあって、それに比べると脳科学の延長のBMIやサイバネティクスはまだこれからだろうなと思ったんです。

でも最後はやっぱり人です。横井浩史先生(現・電気通信大学教授)がBMIや人工知能の研究をされていて、先生のキャラが面白くて、自分もその道に進みたいなと」

脳の研究をするなかで気づいた、
ユーザーの本当のニーズ

近藤は修士課程のなかで1年間、カリフォルニア大学バークレー校に留学する。脳にまつわる研究をするためだ。皮膚表面を流れる筋電ではなく、脳から伝わる信号を拾うことで、義手がより高度な動きをできるのではないかと考えていた。だが……。

「脳内の信号はカオスでマッピングも難しくて……。人によって違ったり、同じ人でも体調に左右されたり、なかなか人工物のように同じパターンが再現されないんです。ゲームにたとえると、コントローラーのAボタンを押しているのに、必ずしもAではなく毎回違う結果になってしまうというか。

再現性がないものは、研究テーマとしてチャレンジングなことではあるのですが、自分がアカデミックに残ってその分野を切り拓く覚悟は持てませんでした。

一方で、義手の研究をしていると実際に手をなくされた方と話す機会も多く、単純に五指の巧みな動きを再現することだけが大事じゃないのかなとも思えてきたんです。たとえば、見た目がカッコいいとか、孫を抱きたい、両手でちゃんとご飯が食べたい、価格を抑えてほしいとか」

修士過程が終わりを迎えようとしていた頃、"義手の精度"ではなく、ユーザーの異なる価値である"デザインとコスト"へと関心がシフトした。しかし大学のカリキュラムにそれらはない。ならば、と門戸を叩いたのがソニーだった。

ソニーで学んだ、
デザインの力とビジネス感覚

 

「当時はベンチャーをやるつもりはまったくなくて、大学院に残るか企業で勉強するか。ソニーならば、最先端のロボットの技術者と、それに加えて、デザインやビジネスに長けた人たちがいるんだろうなという期待がありました。

ソニーでは研究所の研究員だったのですが、まずデザインの力を思い知りました。ある病院の実験で、患者さんやスタッフの方にプロダクトを見てもらう前にプロのデザイナーに加わってもらうんです。テスト用のものであっても、デザインされることで技術に息が吹き込まれるんだって痛感しました。

一方でビジネスの厳しい視点も勉強しました。大企業の研究はほとんどがお蔵入りで、大学にいると論文になるかならないかの一軸でしか評価されませんが、企業としては売れてなんぼ。そこは感覚としてたたき込まれましたね」

国内に1万人もいないとされる義手利用者の分野も、大企業ではビジネスにはなりにくい。そんななか、近藤は大学院時代の仲間たちとなかば「プライベート」で筋電義手の開発を進めていた。

日本発のベンチャー企業として世界へ

 

ソニーに勤めながらプライベートで製作した「handiii」のプロトタイプは、すでにさまざまなコンテストや展示会で注目を集めるようになっていた。そして2014年、満を持してソニーを卒業し、同年10月にベンチャー企業「exiii」を起ち上げた。

「戦略的な部分では、ファーストプロトタイプを完成させて発表したら、きっとなにかが見えるだろうっていう嗅覚は働いていました。イベントで展示したり、クラウドファンディングで支援金を募ってみたり、あと国内だけのプロジェクトで終わらせたくなかったので、アメリカ・オースティンの『SXSW』には意地でも行こうと、試行錯誤していました。

『SXSW』には、実際に手がない方を連れて参加しました。展示中の4日間、その方が『handiii』を装着して来場者とひたすら握手し続けるんですが、それがすごく盛り上がって。さらにその様子がYouTubeやTwitterで拡散され……と予想以上に大きなインパクトを与えられたんです。

今振り返ると、たまたまいろいろなトレンドを融合できていたなと思うんです。ひとつは3Dプリンタが流行り始めた頃で、一般的には自分のフィギュアを作れます、という程度の感覚だったところに、実用性を追い求めた実例を提示するカタチになった。もうひとつは身体障害向けのファッションも流行り始めていて、カッコいい義足や車椅子が出始めていたタイミングで、そのトレンドにものっていた。

さらに日本の家電業界がどん底だった時期で、『ジャパニーズテックはどうなるんだろう?』というムードのなか、日本発のベンチャーがプロダクトを発表することで、国内も国外も多くの人がすごく注目してくれたんです」

その嗅覚は「やはりソニーで学んだもの」だと言う。時代を読むバランス感覚は、いかなるビジネスにおいても決して欠かすことのできないものだ。そして、次の普及モデルとなる「HACKberry」では思い切った試みに出る。そう、オープンソース化だ。

義手の設計図を無償公開した狙いとは?

「『SXSW』では多くのフィードバックを受けたり、時流を肌で感じられるので、次のトレンドがなんとなくわかるんですよ。それで、翌年はオープンソースだろうなと即座に感じて。だとしたら、なんとしても世界初にならないと。それもあって『HACKberry』は迷わず作り方をすべて公開したんです。

これまで大量生産、大量消費という売り切り型のビジネスモデルしかなかったところに、すべて公開して、それぞれに作ってもらおうという考え方を持ち込む。実際、『HACKberry』は世界中に広まっていて、ポーランドでは大人用サイズの図面を元に小さい子ども用を作ったり、ドイツでは手のない人が2つ目の義手として自分で作ったりしているようです」

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しかし、長年温めてきた製品を無償公開してしまっては、企業として立ち行かなくなってしまうのではないのだろうか?

「そこは行き当たりばったりで(笑)。結果として、『HACKberry』をきっかけに間接的にデザインの仕事をいただけるようになったし、義手のための助成金なども通りやすくなったんです。ほかにも、『HACKberry』が科学教材として使われることもあって、モノを売っていくこと以外のビジネスが拓けました。また、会社の規模的に追求できていなかったアイデアを世界中のユーザーが代わりにやってくれるし、フィードバックや最新情報も集まってきます。

もっとも大きいのはexiiii自体の期待値が上がったことですね。今は知財(知的財産権)で固めたり、規格をつくって囲い込む時代でもない気がします。モノだけではなく人も評価してもらえるので——現在は僕はexiiiを抜けましたが——プロデューサーとして評価してもらえた実感はあります。exiiiに残った2人も、個人がそれぞれメカエンジニア、デザイナーとして光っています」

喋りながら考え、
常に「波を読む」感覚で柔軟に思考する

喋りながら考え、常に「波を読む」感覚で柔軟に思考する

"行き当たりばったり"と笑いながらもトレンドへの嗅覚は鋭い。こうした天啓とも言えるひらめきはどのようにキャッチしているのだろうか?

「うーん、受け身でいるのとはちょっと違っていて、アウトプットとインプットは表裏一体だと思っているんですよね。ソニー時代の上司に胸を借りるつもりで今考えていることをバーッと話したり、プロジェクトのメンバーで集まって漠然と考えていることを話して反応を見たり。とりあえず喋りながら考えることが多いです。

もちろん、ひとりでずっと考えることもあるんですけど、基本的に無理ができないというか……寝ないとダメなタイプなんです。仕事だって1日6時間くらいしかできないし、夜は友だちとお酒を飲んで気持ち良く寝て、朝は目覚ましかけないで起きたいときに起きて、ゆっくりお風呂につかって……みたいな(笑)。でもそうしてるあいだに、わーっと話したことがまとまったりします」

それは「ひらめき」というよりは、「波を読む」感覚に近いのだという。

「高校のバスケ部ではポイントガードという司令塔のポジションだったんです。それで大学時代にはOBとして後輩チームの監督なんかもしていて。だから今は対象が義手のプロジェクトですけど、昔から人をどう動かすかということばかり考えていたので、波を読むのは得意かもしれません。

今もなにかを作るときに、僕自身は手を動かしていないんです。プロジェクトに合わせてメンバーがいて、ディレクションをしています。人は細かく指示しても言うことを聞いてくれないことが多いので、とりあえず前半はここを目指そう、観客席や審判も味方につけないと、といったバスケの試合運びのような感覚は、仕事においてもまったく同じですね」

そんな近藤の気分転換は、やはりバスケだ。

「黙々とひとりでシュートを打ってるとコンディションが整ってくるんです。仕事や人間関係の調子が悪いときはドリブルがうまくつけなかったり、シュートも当然入らない。でも1時間くらいやってると、なんとなくカラダが調整できて心も落ち着いてくる。だから本当に限界が来たら1日休み! ってバスケしに行きます」

学生時代から好きだったバスケの感覚を仕事に生かし、さらに積極的休養としても取り入れる。身体的にアクティブであると同時に、柔軟な思考力を保つカギになっているのかもしれない。

研究、開発を超越したところに
「表現」がある

 

では、適度に集中したいときは?

「昔からフリスクです。ベーシックなペパーミントとスペアミントをよく食べています。今もちょっと集中力が落ちてきたときに口にしています。そもそも、小学生の頃から中学受験の勉強中に食べていたので、フリスクを食べると集中できるって、脳に刷り込まれてるんじゃないかな(笑)」

最後にこんな質問をぶつけてみた。イノベーションを起こすべくして義手を手がけたのか? それともユーザーが必要なものを作ろうとした結果、イノベーションにつながったのか?

「完全に前者ですね。イノベーションというか、表現みたいなものですけど。バスケも試合に出るのが楽しかったし、演劇も少しかじったことがあって、表現は人間の根源だという気持ちがあるんです。

大学で義手を研究している工学系の人たちだと『やった! 握れました』でよく終わっちゃうんですけど、それ自体は工学者の素晴らしい表現だとして、ただ、義手の使い手としてはまだなにも表現できてないよって思うんですよ。テニスにしても、ピアノを弾くにしても、料理、ゲーム……手はすべてなにかしらの表現の象徴で、だから僕も表現者として手にハマっちゃったんだと思います。

実際、exiiiを始めるときも『映画みたいなモノ作りがしたい』と言っていたんですけど、画一的な義手を世界に広めたいというより、友だちのおっちゃんに義手をつけて、その人を主人公としてストーリーをつくっていきたい。僕は、モノがあるだけじゃなく、ストーリーがないと燃えないですね」

現在は、NPO法人Mission ARM Japanの理事のひとりとして上肢障害の当事者とエンジニア、医療関係者が気軽にアイデアを形にできるプラットフォームを構築している傍ら、再びソニーに戻り、大企業ならではの表現に再挑戦している。

あるサービスがユーザー主導で世界中に広がっていく様子について、近藤は「初音ミク的に(笑)」という例え方をした。「いいもの」はユーザーが自発的に受け入れるもので、また、そういった広がり方を近藤も体験的に理解している。現在31歳、デジタルネイティブの近藤のなかにある、これもひとつのバランス感覚と言っていいのかもしれない。

NPO法人 Mission ARM Japan 理事/カタリスト
近藤玄大

こんどう・げんた/1986年、大阪府生まれ。大学在学中に筋電義手をはじめとするブレイン・マシン・インターフェイスを研究。ソニーでのロボティクス研究と新規事業創出を経て、2014年にイクシー株式会社を設立。在職中より趣味で開発していた電動義手の普及を本格化させ、3Dプリンタやオープンソースを活用した安価な電動義手「handiii」「HACKberry」を発表。さまざまな賞に輝く。現在はNPO法人にて上肢障害の当事者とエンジニア、医療関係者などが気軽に交流しアイデアを形にできるプラットフォームを構築中。

text:FRISK JOURNAL
photo:下屋敷和文